●7月11日東京・練馬文化センター大ホールで「競演2009 」と題したイベントが行なわれます。 サブタイトルは〜3つのグループが奏でる今日的マンドリン合奏の世界〜。主催は競演2009 実行委員会。会の中心は、自身マンドリン奏者としても活躍している、吉田剛士さん。最近はマンドリン専門誌「奏でる〜マンドリン」の監修としても活動しています。吉田さんにこのイベントについて伺います。

若い動き

――「奏でる〜マンドリン」は早くも3号目が出て、雑誌的な顔が早くも定着してきましたね。もう4号目の編集にかかっているんですか?
吉 田:いろいろやりたいことはあるんですが、大きくは、今出ている2号のかたちを元に、楽しく実用的な部分ともう少しアカデミックな部分を発展させて作っていきたいな、と考えています。Webマガジンの「ギターの時間」は?
――キャッチフレーズは「大人のためのギター、マンドリンマガジン」です。50歳以上を想定して、青春時代の音楽体験をギターやマンドリンと過ごした人を核に据えています。楽器で言えばナイロン弦ギターに軸足を置いて、でもジャンルはあまり特定していません。でもフィンガースタイルというところは中心に考えていたいところです。
吉 田:フィンガーピッキングギターというとスティール弦のアコギを連想しますね。
――そうなんですね。たとえば、ボサノバを含むブラジル系演奏家で言っても、技術的なことで言うとクラシックギターのメソッドがベースにある。でもそれも、じつは曖昧なところもある。ただ、原則は同じ。そのへんで音楽スタイル毎の了解事はありますね。演奏家ごとの、といってもいいですが。そこは柔軟に考えて、ジャンルの境界を越えてギターを考えていければいいと思っています。
吉 田:なるほど。
――で、そのとき今考えられるいちばんの僚友はマンドリンではないかな、と思っているんです。
吉 田:そうなんですか?
――最初のマンドリン体験は吉田さんの演奏でした。これが自分にはとても面白かったんです。でもこの一年くらい高校、大学のマンドリンクラブの定期演奏会に足を運んでみて思ったのは、イメージ通りのマンドリンの世界があって、それはそれで面白いけど、芸事の世界にとどまっていて、そこをはみ出しそうな気配もあるのに惜しいなあというふうに思える公演もありました。
吉 田:演奏会によってはいろいろ性格はあると思いますからね(笑)。
――発表会には発表会の趣旨があるから別ものですけどね。でもこの1年そういうタイプじゃない人のマンドリン演奏にも接して,新しさを感じているんです。堀 雅貴くんとかその周辺です。吉田さんと2008年の春に会ったとき「マンドリンの中にも新しい動きがある」って話していましたが、そういう中に彼らは?
吉 田:ええ、もちろん入っています。
――ギターはそこから見るとずいぶん成熟しているといえばいえるかもしれないけど。
吉 田:クラシックギターの世界は現代作曲家の作品提供もあり、演奏家がそれをすぐに発表できる場がマンドリンに比べればありますよね。少ないと言われるようですがスタープレイヤーもいるし。
――そうですね。クラシック音楽の世界全体から見ると相変わらず“周辺”的な位置関係に見えますが、確実に認知もされていますね。数少ないながら若い演奏家の活躍で。そういう認知がマンドリンはもう一歩なんでしょうかね。
吉 田:今度の「奏でる」には堀くん、丸本くんにも出て来てもらうことにしていますが。
――彼らの才能は注目に値すると思っています。
吉 田:ぜひ、協力して盛り上げたいですね。
――それはぜひ!

トレモロの可能性

――ところで、「ギターの時間」では最初にアプローチしたマンドリン界の人は久保田孝さんだったんですが、久保田メソッドと言われるトレモロをカウントして揃える、という演奏方法は、吉田さんはどんな考え方を持っているんですか? 今もその考え方に疑問をもたれている方もいるようですが。
吉 田:僕自身は意識して数を数えているわけではなかったんですが、「どうかな?」と自分の演奏を意識してみると、わりと揃っているんですよ。ピッキングの数というのは速度に見合ったところで切り替わるように演奏していましたしね。それは当然必要なことなので。うまい人は無意識にそれをやっていると思いますね。だから逆に意識することでうまく行くみたいなことはあると思います。
――そうなんでしょうね。
吉 田:僕自身はトレモロって言うのは、ひとつの音の立ち上がりから衰退までを、細かい音の反復によって表現するものだと思っています。当然ダイナミクスが変化するし、感覚的なものが重要ですよね。「数える」ということを杓子定規に捉えると機械的になる危険はあるでしょうが、実際にはそこだけクローズアップするわけではないでしょうから、うまくいっているのだと思います。ただ、そういう指導が成り立つというのはメンバーのレベルも問われますし、簡単なことではないと思いますね。

マンドリンの新しい世界

吉 田:以前から久保田先生の活動とか、関西では石村隆行くんの活動とかには一目置いています。マンドリンの世界ではある種の頂点だし、もちろん定評がある。それでも、一般音楽界の中では決してメジャーとは言えませんよね? マンドリンがその壁を乗り越えられないか。それがずっと課題なんです。
――時期がくればブレイクするように思えますが。もう少し実演で出て行けるプレイヤーが必要だし作品もほしいといわれることが多いようですけど。
吉 田:マンドリンは今までテレビネタになったことは少なからずあったはずなんですが、今、そして今後マンドリン演奏がテレビ的な興味に耐えられるのか? そこも疑問、課題ですよね。マンドリン、おもしろいね、って言われるためにはルックスも必要だろうし。そしてなにより内容がよくないといけない。つまりなにをどう弾くか、ですね。
――演奏家はもっと出て来てもいいと思いますね。
吉 田:たとえば「ギターの時間」でも紹介していたリカルド・サンドバル。あれもとてもおもしろいけど、日本人があれをあのスタイルのままどんどんやっても民族音楽としかとらえられかねない。やはり独自のテイストを出していかないといけないでしょうね。マリオネットというグループで求めてきたのも、まさに独自の世界ということなのですが。
―――やはりマンドリンがメジャーになるためには、スターが出てくることやスター歌手の伴奏で出て行くとかは必要でしょうね。
吉 田:マリオネットは歌手と共演したりする経験が比較的あるんですよ。石川さゆりさん、渡辺真知子さんと共演したり、という実績が少しはある。これらはポルトガルギターがメインですけど。
 今僕は「トレモロ兄弟。」というプロジェクトを始めたばかりで、これはまだ漠然としているけど、いま考えているところでは、マンドリン2本プラスパーカッションとベースなんかでユニット化して、一般に通用するものを目指しています。固定したメンバーではなく、いろんなマンドリン奏者に加わってもらったりできればいいと思っています。
「トレモロ兄弟。」はプロジェクト名に過ぎませんが、トレモロ自体はけっこう叙情的なもので捨てがたい魅力がある。でも、それだけで終わりたくないんですね。単音で弾くよさというのももっと出していきたいし。少なくとも、一般に通用するエンターテインメントにしていくためには、リズムをもっと前面に出したサウンドが必要だと考えています。

 ところで、3年前からマリオネット・マンドリンオーケストラという団体を主宰していまして毎年独自のプログラムでコンサートを行っています。こちらは「マンドリン合奏の新たなスタンダードを提案する」という大それたスローガンを掲げています。
 今年は本拠地大阪以外に、東京で行われる7月11日のイベントでも演奏いたします。このイベントには3つのマンドリンアンサンブルが登場しますが、それぞれがマンドリンによる新しいアプローチの音楽を目指している個性的なグループです。実力・実績ともに優れた数多くの団体がある中、あえて今日的なマンドリン合奏のあり方を、自他共に対して、問いかける意味を込めた意欲的なイベントなんです。とにかく、いろんな人がいろんな形に特化したものを提示していくことが大事ではないでしょうか。
 厳しい批評にもさらされながら、みんなが切磋琢磨していきたいと思います。一人でも多くの方においでいただきたいと願っています。


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競演2009出演団体


○アンサンブル テスタ カルド


 『テスタ カルド』(Testa Calda)とはイタリア語で『熱く燃える、熱心な人たち』を意味する。1982年にマンドリニスト片岡道子と門下生田島透を中心に発足して以来、片岡道子の指導の下、定期演奏会、研究所発表会、国内外の撥弦楽器音楽祭出演や招待演奏等で積極的に演奏活動を行い、現代作曲家の作品を多く取り上げてきた。 2000年より委嘱作品にも取り組み、マンドリンアンサンブルの可能性を探求している。
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○エレクトリック・チェア


 1994年に楽器製作家、嶋田茂、作曲家の内藤正彦によって始められた。奏者一人一人のキャラクターや距離を大切にしつつ、曲ごとに編成や配置を変える。80曲を越えるレパートリーは内藤正彦による書き下ろし。身の回りや自然環境に着想された楽曲に取り組む過程において結果的には従来のマンドリン合奏とはかなり異なる豊穣な音の世界を作り出している。映画「スピード・マスター」(須賀大歓)、「天上の花」(かわなかのぶひろ)、平田満、井上加奈子主催「アル☆カンパニー」に楽曲提供。

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○マリオネット・
マンドリンオーケストラ


 ポルトガルギターとマンドリンによるアコースティックユニット≪マリオネット≫のオリジナル楽曲を専門に演奏するオーケストラとして、吉田剛士・指揮指導のもと、2006年に結成。日本人としての感性と、ラテン系の撥弦楽器の魅力を生かした曲作りを進めてきたマリオネットの楽曲を新たに合奏曲として発展させた独自のレパートリーでマンドリン合奏の新たなスタンダードを目指す。
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